第三話 またね See you, again.



 義里カズ



     ◇懺悔 1



 あれから、ずっと、わたしは言いつづけています。

 お母さん。ごめんなさい。



     ◇六月 1


 沈黙を破るのは私とシーユーのどちらかが先になる。今回はたまたま両方だった。

 声を出しかけたのが重なって、もう一度テーブルに沈黙が載る。

 アパートの一室。私と同居人。一つの提案。

 おそるおそる、訊いてみる。

「……どう? 大丈夫そう?」

 その言葉で、シーユーは顔を一層険しくする。考え込む時に下唇を噛むという癖は最近になって知った。

 彼女は眉を寄せたまま、こっちを見上げる。

「もうちょっと、考えていい?」

 あまり気まずくなってもいけない。私は笑いかける。

「いいよ」

 提案は急だったかもしれない。私だって、突然電話がかかってこなければこんな訊き方はしなかっただろう。

 先ほどかかってきた電話を、思い出す。



 数十分前。携帯電話の画面を見ると、実家の電話番号が表示されていた。珍しい。

 受話ボタンを押す。母がいつもと同じ口調で話し始めた。

「絵里、今度の月曜日、休みでしょ?」

「うん。開校記念日」

「帰ってくる気はない? 二泊三日で」

「……なんで」

「だってあんた、ゴールデンウィークも帰ってこなかったでしょ」

 私は携帯電話を持ち替える。その通りだった。去年は帰省したものの、今年は正月以来実家に戻ってはいない。主因は当然シーユーなのだけど、それを話すわけにもいかない。

 すでに決定しているような口調で、母が付け加える。

「智仁もちょうど土日に帰ってくるみたいだし、久しぶりの一家団欒ってことで、どう」

 どう、といわれても。

「あ、新幹線使っていいから。二泊三日なら、準備も少なくていいでしょ。うーん、ほんとは帰りに米袋とか持たせたいけどねー」

 恐る恐る割り込んでみる。

「あの、さ」

「なに?」

「ともだち、連れていってもいい? 一人」

 我ながら、言い方が不自然極まりない。向こうで目を丸くする母の顔を予想する。

「へー。あんたもそういう友達できたんだ! いやーよかった、学校で一人寂しくやってるんじゃないかと」

 大きなお世話。いつもこんなことを言うので帰省する気をなくす。

 帰った時にお祝い会が開かれても嫌なので付け加える。

「たぶんだからね。都合によるだろうし」

「はいはい。布団の準備くらいはしとくから」

 あとは週末の話と兄の話だけで、電話を切った。

 シーユーをこのアパートに残しておくのも不安だし、連れていけるならそれに越したことはない。

 あとはシーユーの意思だけだ。ここ数か月、他人と会おうとしていない彼女をはたして連れていくことはできるのか。



 シーユーが回答を出したのは翌日の朝。

 私が制服を着ている時だった。シーユーが窓の段差に座ったまま、訊いてくる。ぼさぼさの髪がわずかに揺れる。

「エリーの家にシーユーが行って、怒られたりしない?」

 そんなこと気にしなくとも。

 でも、それことが彼女の性格を強調しているともいえる。

「大丈夫。学校の友達ってことにしておくから」

「ちがくて」シーユーは大きく首を振る。「エリーが、怒られないかってこと」

「それも大丈夫。心配する必要ないよ」

 ついていくことで迷惑がかかるかもしれないことを懸念しているんだろうけど、別に何ともない。実家の放任主義を思い出す。適度に放っておかれるんじゃないだろうか。

 そこからしばらくの沈黙を経て、シーユーが頷く。

「……お邪魔しても、いい?」

 オーケー、ということだろうか。私は笑いかけた。

「別に楽しいアトラクションとかはないけどね」

 シーユーの顔にも笑みが戻って、私はやっと安心する。

 最近、彼女も外に出るのを嫌がらなくなってきた。ばっちり変装して、やっとアパートの周りを歩くことができるくらいだけど。それでも、セールスが来た時に震えあがっていた頃からすれば、それくらいでも十分な進歩だ。



 土曜日。忘れずに鍵を閉める。

「準備、大丈夫? 忘れ物ない?」

「うん」

 いくつかの荷物はもう宅配便で送っておいたので、手持ちのバッグは小さい。二度ほどの乗り換えに対応するためだ。

 シーユーにはリュックサックを持たせてみた。出発前の夜、普段着とは別に黄色のコートを大事に詰めていたのが印象的だった。

 それにしても変装甚だしい。フードと大きな髪留め。それにオレンジ色のメガネは、私が買ってきた安物のレンズなしである。こうしてみるとまるっきり別人、すごく活発そうな子に見える。目立たなさの追求というより、他人に認識されたくない欲求の方が大きいのだろう。不審者のような装いだと駅で止められるだろうし、この方がいい。

 さて、行こう。エレベーターの方に踏み出した瞬間、廊下の奥で声が聞こえた。

 見た瞬間、背筋が冷える。シーユーも同じ気分だろう。

 大きめの声で二人が会話をしている。

 一人は、塩川さん。怪しげな隣人。

「……なんでここがわかったわけ?」

「探させてもらったよ、かなりの労力をかけてね。別にそんなことはどうでもいいんだ。澄子ちゃん。早く家の方に戻ってくれないと」

 もう一人、初老の男性は数か月前に見たことがある。

 私が初めてシーユーの髪を切った日だ。アパートの前で、人探しをしていた男性。そして塩川さんは、あの男性を恐れていた。

 今も、廊下を剣呑な雰囲気が包んでいる。

 塩川さんは今までに見たことがないほど怒気を漲らせていた。

「それはそちらさんの都合でしょう? アタシは戻る気ないわ。今から走って逃げてもいい」

「そう言わんでくれ」

「アタシは覚悟を持って逃げてるの。誰も来ない場所と安寧な生活を手に入れるためなら、何でもやる」

 一歩踏み込んで憎々しげに見上げる塩川さん。初老の男性は息をついた。 

「……澄子ちゃん。あんたの親御さんがなんて言い出したか知らないだろう? 他人の俺から見てもあれだけ過保護だったご母堂様が、『縁が切れても構わない。もう一度だけでも会って気持ちを訊きたい』とまで言ったんだぞ」

「……」

 押し黙る塩川さん。

 私たちも動けない。

関係のない顔をして通り過ぎるべきだということは分かっていた。シーユーのこともあるし、すぐ去るか部屋に戻るかしないといけなかったのに、足が動かなかった。

 後ろにいるシーユーが、私の左腕を握る。

 やがて、塩川さんが笑みを見せた。いつも通りの。

「いいわ。帰ってやろうじゃない」

 そして、やっと二人の声が小さくなる。なにやらやりとりをしていた。今のうちに通り過ぎようと、早めに歩き出す。

 塩川さんは私たちに気付いた。

「あら、絵里ちゃん」

「……どうも」

「と、ちっさい子」

「……」

 無心で通り過ぎる。関係ない。私たちは関係ない。

「ねえ」背後で、塩川さんの声。「あんたもさ、逃げ切れると思わない方がいいよ」

 氷で首筋をなでられたように、自分の体が震えた。

 シーユーが、いっそう私の腕を強くつかむ。

 明らかに、私たちへの忠告だった。

 怖くなって、塩川さんがどんな顔をしているか見たくなくて、エレベーターまで走る。

 シーユーは私の後ろについたままで、その表情までは分からなかった。


     ◇懺悔 2


 お母さんは、突然ひとりぼっちになったと言っていましたね。

 わたしはその気持ちが、しばらく分かりませんでした。こうしてひとりになって、ようやく分かった気がします。

 時々、ふるえだします。支えが何もなくなったことと、どこにふみ出せばいいか分からなくなったこと。これだけ冷たいことだとは思いもしませんでした。

 今でもこの気持ちを、どうすればいいのか困っています。 

 アパートを何度も引っこしていたあの日々。わたしはお母さんと一緒にいて、本当はさみしくなかったんだと知りました。ひとりぼっちって、あんなことじゃない。お母さんが時々、そんなことを言っていた理由、分かります。

 だからこそ、わたしは不安です。

 もしかして、また、お母さんのことをひとりぼっちにしたんじゃないかって。


     ◇六月 2


 駅の改札前で、シーユーの足が止まった。

 それまでは、アパートでの出来事が響き、私もシーユーも無言で歩いた。人が多い駅前に着いた頃にはいくらか落ち着いたけど、しばらくあのショックは心に刺さり続けるだろうと思った。

 ただ当たり前のことだけど、シーユーの方があの衝撃は大きかったらしい。

 私が窓口で切符を買い戻ってきたところで、柱のそばで待つシーユーの姿が、いつもと違って見えた。伊達眼鏡に隠れた彼女の瞳。あまりの鋭さに、声をかけるのもためらわれる。

 視線は改札の方に注がれていた。

 私は努めて事務的にシーユーへ近づく。「……駅員さん、声は滅多にかけてこないはずだから大丈夫」

 ちらとこちらを見て、神妙に頷くシーユー。ここ数か月で、シーユーが警戒する対象くらいは分かるようになった。彼女は対象をじっと見つめる癖がある。それこそ、アパートの窓から外を観察するように、鋭く。

 荷物を持っても、シーユーが動くまでにはしばらく時間がかかった。新幹線までの時間はまだあるけど、長居するわけにもいかない。

「どう、行ける?」

「……うん」

 ようやく足を進めるシーユー。改札に近づき、喧騒が強くなる。三列の改札は細かく人が行き来していた。

 自然に見えるよう努めつつ、私たちは改札を通る。

 しばらく歩いて、こっそり振り返ってみる。駅員さんがこちらを注視するようなことはなかった。



 久しぶりに乗る新幹線はミントの香りがした。

 二人席に座ったところで、シーユーが深呼吸する。やはり緊張していたらしい。これだけの人混みを通るのも数か月ぶりと考えると当たり前のことかもしれない。

 ただ、走り出す頃にはいつもの気分が戻ったようで、伊達眼鏡も外していた。

「お弁当、なに頼む?」

「んー」

 車内販売員さんが見せてくれるメニューを眺めて、今日のお昼を決める。五月の軽い言い合い以来、シーユーも無理に遠慮することはなく、きちんと対応してくれる。出会った二月の頃は「いりません」とか言っていたのに。

 私は手元の切符を見つつ、今日の予定を説明する。

「このまま二時間くらい新幹線に乗って、そこから乗り換え。地元の駅に降りたら、そこからバス。家には三時前くらいに着くかな」

 いつもは高速バスなどを使うから、もっとかかる。費用が倍くらい違うから仕方がない。

 シーユーはペットボトルのラベルを触り、私に訊く。

「エリーの家族って?」

「前話さなかったっけ。父と母と、兄」

「それはきいたかも」微笑むシーユー。「どんな人かってこと。やさしい?」

 どんな人、か。難しい。

「放任主義、かな」

 考えて、その一言くらいしかピンと来るものはない。「意外と放っておかれる。母親の方もそんなにべったりかまってくるわけじゃないし。兄なんか半年に一回連絡くれればいい方」

「お兄さんはなにしてる人?」

「大学生。もっと西の方で一人暮らし中。今日実家に戻ってるはずだから見れるよ」

 そこからしばらく、私の家族の話をする。というか、シーユーの質問に答える形式。考えてみると、こうして家族の話を長くするのは初めてだった。だって、私の方から家族の話は躊躇われる。

  お母さん、ごめんなさい。

 頭を振る。出会ってから四か月くらい。まだ、彼女に家族の質問は、できない。

 乗り換えで戸惑い、地元のバスの本数が減っていることに驚き、実家近くのバス停に着くころには三時を過ぎていた。ちょっと日が傾いている。

 シーユーは裏側に広がる田園が珍しいらしく、じっと眺めている。

「どしたの」

「こんなに広いの、初めて見るかも」

「ほんと?」

 言われてみると、アパートの方にも田はあるけれど、ここまでの面積はない。こんな調子では、実家の裏にある森を見たら目を丸くするのではないだろうか。

 しばらく歩く。変わっていない。左側に田園、右側に家々と山。道路は広いけれど、山に合わせくねっているし、通る車も歩行者も少ない。

 シーユーはフードも外し、きょろきょろと見まわしていてちょっと面白い。

 私はというと、携帯電話を引っ張り出していた。「迎えくるって言ってたのに……」

 しばらく歩き、急なカーブを曲がったところで、向こうから見覚えのある車が来た。昔から変わっていない。一度壊れた時も同じシリーズの車を買いなおしたくらい、母が好きらしい。

 私たちの横まで来て、うちの車は止まる。それこそ見える範囲に人がいないから、こんなことをしても注意されることはない。

 向こう、運転席の方のドアが開いて母が降り、こちらと顔を合わせる。「ごめんごめん、話してたら長くなってねー」

 母のおおらかさはいまさらなので腹も立たない。後部座席を開け、荷物を入れる。

 そうしているうちに母がこちらにまわってきた。

「疲れなかった? まあ新幹線だからいつもよりは楽だと思うけど。……で、こちらがお友達さん?」

 そばにいるシーユーは固い表情のまま頭を下げる。

「よくこんな田舎に来たねー、なにもないのに……」

 そこで、いつもは喋り続ける母が、珍しく言葉を止める。

 じっとシーユーの顔を見ていた。どうしたのか訊く前に、母がその口を開く。

「あれ、あなた、海智佳ちゃんじゃない? 海咲ちゃんの娘さん、そうでしょ?」

 え。

 今、なんて?


     ◇懺悔 3


 お母さんは、いつもきびしかった。

 ひとりぼっちでも生きていくには、固くならなきゃいけないと言っていましたね。

 やわらかいと、クッションにされるだけだから。部屋の外は、クッションにする人たちとクッションにされる人たちであふれているから。

 わたしはそれを、「甘えるな」という意味だと思っていました。強くいつづけること、弱さを捨てること。だからとてもつらかった。

 だけど、それはちがっていましたね。今でもそれを忘れずにいます。

 それに気づいたからこそ、わたしはなんとかやっていけました。かみを引っぱられた時。みんな持っているはずのものをわたしだけ持っていないと知った時。人が四人も家にいて奥の部屋でじっと静かにしている時。

 そして多分、今も。



 わたしが手首に傷をつけられたあの日。

 刺してきた男の人は、笑っていました。お茶の間で、助けをよべない、たった一人のわたしのことを笑っていました。

 だけど、お母さんの言葉を思い出すだけで、いたみはありませんでした。

 固くならなきゃいけない。

 ひとりぼっちでも。

 だから、あの人からちょうこく刀をうばって、もう一度刺してみたのです。二つのきずで、血は多く出ました。固かったので大丈夫でした。

 あの人が笑わなくなったのを、わたしは見ました。

 それでようやく、わたしはあの人を、人間なのだと思いました。



 お母さんはわたしを見てすぐ、分かってくれましたね。

 手当てをしてくれた時、わたしがいろいろしゃべろうとした時も、言わなくていいと答えてくれました。

 あの時はじめて、お母さんの目がうるんでいたのを見た気がします。

 ありがとうございました。

 あと、お母さん、ひとつ聞いてもいいでしょうか。

 もしかして。

 あの人は、お父さんだったんですか。


     ◇六月 3


 パニックもいいところだったのに、母はちっともそれを分かってくれなかった。

「久々に帰ってきたというのに落ち着かない娘っこだね」

「そんなこと言ってる場合じゃないってば! なんで知ってるの!」

「いいからあんた、まず部屋を片付けなさい。海智佳ちゃんも寝るんでしょ? 布団持ってって」

 母はまったく取り合ってくれない。

 言い合いが長くなり、私は渋い顔で部屋へと向かう。

 自宅。しばらくぶりだけど、景色は別に変わらない。田園と、枯れた庭と、裏山。変わった所といえば、前より屋根の色がくすんだように見えたくらい。リビングの横の座敷も、二階に上がる階段も、柱に残るシールの跡も、何も変わっていなかった。帰ってきたくなかった理由のひとつがこれだ。まるで時間が止まっているように見えて、ここに戻ってくることを強制される自分自身も「止まっている」ように感じるから。

 いつまでも自分勝手さを捨てられない自分。

 いや、いい。こんなことを考えている暇はない。頭を振り、階段を登り端の部屋へ向かう。もう使っていない自分の部屋。今のところは母もそのままにしているみたいだけど、そのうち物置に変わるだろう。

 戸を開けると、部屋の奥の方、洋服ダンスの横にシーユーが体育座りしていた。

 そう、一番動揺しているのは彼女なのだ。

「……落ち着いた?」

 五秒ほどして、頷きが返ってくる。出会った頃に一番近い反応。警戒レベルマックス。

 まいった。これでは家族に紹介どころではない。夕食の時にしよう。

「シーユー、部屋片付けるから手伝ってくれる? 広くしないと」

「……はい」

 のっそり動き出すシーユー。こちらを見る目は、まるで二月のあの日のように、私になにかを問いかけてくる。



 結局、シーユーはしばらく私の部屋から離れようとしなかった。考えてみれば、彼女は数ヶ月隠れるように生活していたわけで、急に名前を言い当てられたら衝撃も大きいのかもしれない。あまり声もかけられなかった。

 夕方、庭に車の音。父が帰ってきたらしい。

「おかえりなさい」

 玄関に出た私を見て、父が眉を上げる。ワイシャツの白色のおかげで、黒い髪の減りがより強調されているように見える。

「帰ってたのか」

「うん」

「智仁が来るのは夜になるってよ。駅に迎えに行く」

「うん」

 ちょっと沈黙。

 台所から母の声。「そろそろご飯になるからね!」

 それを聞いて父は目を落とし、奥の部屋にのそのそと歩いていく。友達のことを訊かれなくてよかった、なんて思ってしまった。



「先ほどはしつれいしました」

 夕飯の時間。ようやく出てきたシーユーは、茶の間で頭を下げた。

「わたし、わたし……」眉を曲げ、シーユーはこちらをちらと見る。「駒谷海智佳、と、いいます。よろしくお願いします」

 複雑な気分だった。まさかこんな形で、シーユーの本名を聞くことになるとは。

 席を囲む父と母はそんな事情を知らない。母はにこにこして肉じゃがを勧める。

「はいよ。一日よろしくね。ほら座って食べな」

「……はい」

 結果、普通通りの父と母、それに向かい合うよう座る私とシーユーという奇妙な食卓になった。

 実家にいた時と全く変わっていないのに、落ち着かない。シーユーがいる今に限らず、去年からあった。自分の意思で外の高校へ出て行ったからこそ、戻ってきた時に居心地の悪さを感じるのだろうか。

 話題を振るのは主に母だけど、会話は弾まない。質問攻めにされているシーユーも答えにくいらしく曖昧にごまかしている。

「いやあ、まさか海咲ちゃんの娘と同じ学校とはねえ」

 母がしみじみと言い、無口の父が珍しく訊く。

「……知ってるのか」

「ほら、駒谷さん家のよ。お嫁さん、昔にお話ししたでしょ」

「……ああ」父は思い出したように目を細める。「確かに面影がある」

 私は叫びだしそうになる。そろそろ我慢ならなくなってきた。

 分からないのだ。私は。駒谷さん、海咲ちゃん、海智佳ちゃん、そんな人は知らない。知らない人の情報を前提に話をされても困る。

 私の隣にいるのは、シーユーだけなのに。

 シーユーの顔を見る。神妙そうな表情で、それでも悲しげな眼は変わらない。

 地獄のような食卓だった。今まで暗黙の了解で隠されていたことが、カメラのフラッシュのように明るみに出る。触っていなかった傷口を無遠慮に触られることが、これほど不快だとは思わなかった。

 報いなのだろうか。今までシーユーに深入りしなかった結果。関わろうとしなかった罰。

 久しぶりに、実家の食事がおいしくないと思った。こう思うことも不快だった。



 風呂を勧められ、まず私が入り、そのあとシーユーと交代した。

 髪を乾かしているところで、父に呼ばれる。

「絵里……ちょっと」

「……うん」

 茶の間に座るのは父と母。なるほど、事情聴取か。

 私が向かい合うように座ると、母がまず口を開く。

「ま、絵里が友達連れてくるって聞いた時点で何かあるなとは思ったけどさ」

「失礼な」反射的に返してしまう。「というか、もう何度も言ったけど。なんであの子のこと知ってるの」

「海咲ちゃんとこの娘さんでしょ。小さい頃会ったこともある」

 母の一言一言にむっとしてしまう自分がいる。

「どんな繋がり?」

「アパートにいた時、近くに住んでたのよ。海咲ちゃんと、海智佳ちゃん。ふたりで大変そうだったから」

「……そう」

 私が生まれる前か、生まれてすぐ位の話だ。その後、父は実家に戻ることを決心し、以降はこの家にいることとなる。当時赤ちゃんだった私にとっては伝聞でしか知らない出来事だ。

 そして、シーユーのほうが私よりも年上の可能性が高くなってきた。

 もう嫌になりそうだった。私が触れようとしなかった事実を、どうしてそんなに突きつけようとするのだ。

 横の父が、やっと話し出す。

「覚えてる。あの子は間違いない。面影がある」

 こちらとしては黙っているしかない。

 遠くのほうで、蛙の声が響く。実家だと、これほど大きく聞こえるのか。

「で」母のほうが身を乗り出してくる。「あんたが海智佳ちゃんを連れてきたのはどういうわけ。高校にいたの? 一人で?」

 また答えにくい質問だ。必然、濁す回答になる。

「……そうじゃない。アパートで会ったの」

「隣に大人はいたの?」

「いない。ひとり」

 茶の間に沈黙が流れる。そのうちシーユーがお風呂から上がってくるだろうと思うと、気が気でない。

「……んんー」母がうなりだす。「やっぱり事情があるわけね。どうなのか聞いておいたほうがよさそう」

 そろそろ限界だった。

「ねえ、いったいどういうことなの? シーユーがなにかあるわけ? ずっと会話がかみ合ってない気がする」

 私の踏み込みに対し、皺を寄せる父と母。

 私は覚悟した。

 やがて父のほうが、口を開く。

「あの子の母親、拘置所にいるはずなんだ」


     ◇懺悔 4


 お母さんと別れたあの冬の日。結局、あの時お母さんが何と言っていたのか分かりません。

 夢を見るたび、思い出し、わたしはあやまっています。

 ごめんなさい。

 そしてそれは、わたしが逃げている時くり返していた言葉でもあります。



 わたしが覚えているのは、たたき起こされたことと、逃げてと言われたことです。

「どこでもいいから、逃げて」

 そう言われても、わたしはどこへ行けばいいのか分かりませんでした。

「お、お母さんは?」「もうだめだから」

 目のうるんだお母さんを見たのは、あれが二度目です。

「海智佳はここにいなくても大丈夫。そういう風に全部かくしてあるから」「でも」「早く!」

 お母さんお気に入りの黄色いコートをわたされ、窓から外に出されました。

「もう海智佳とは会えないかもしれない。でも」

 そこからは風でよく聞こえなかったのです。外はふぶいていました。大きなつぶの雪がたくさんふっていました。

 ただ、お母さんの言葉を聞きのがしたら大変なことになると思って、ずっと、お母さんの手にしがみついていました。

 最後の三文字だけ、たぶん、聞き取れたと思います。

 だからわたしは、生きなきゃいけないと思いました。

 赤いランプの車が見えて、走りました。

 ごめんなさい。

 あの時、お母さんをどれだけ連れていこうとしても、お母さんはじっとしていました。

 ひとりで逃げたあの時、まだわたしはやわらかかったのだと知りました。


     ◇六月 4


 話は長引き、私がお風呂に入った後はすぐ寝ることになった。

 部屋に二つの布団を敷いて、蛍光灯を消す。アパートでいつもやっているように豆電球だけつけているものの、やはり印象は違う。シーユーは違う部屋でも寝られるだろうか、と、左側に顔を向ける。

 布団に体が埋まっていて、彼女の頭半分くらいだけ外に出ていた。いつものように体を丸めて寝ているのだろう。こちらを向いていないのでどんな表情かは読めない。

 と、部屋の外で大きな音がした。向こうの戸が閉まったらしい。兄が帰ってきたのか。

 私はこの物音に慣れているけど、シーユーはそうではない。巣穴から出るように勢いよく顔を出し、きょろきょろと見渡す。

 目が合った。

「大丈夫。向こうの部屋の音だから」

 落ち着かせようと囁く。

 丸く見開かれたシーユーの目がしぼみ、眉が曲がった。布団を吹き飛ばし、体を投げるようにこちらの方に飛び込んでくる。

「ごめんなさい!」

「ちょっと、何!」

 私の横に引っ付き、布団の上から抱きしめてくる。彼女の黒髪が、私の頬を撫でてきた。

「ずっと、あやまらなきゃって思ってて……でも、名前呼ばれてびっくりして……」

 頭を私の肩にこすり付けてくる。いつもの仕草。

「別に、そんな」

 気にしていたのだろうか。それこそ、私がシーユーに話しかけられなかったように。

 頭を撫でながら、私は少し安心した。ようやく知っているシーユーに触れられたという感覚。そうだ、シーユーにどんな真実があろうと、彼女自体に変化はないのだ。

 駒谷海智佳。彼女の本名で呼ぶのに抵抗を感じるのは、実感がないから。そう思うと、今まで一緒に過ごしてきたシーユーが、そばに戻ってきたように思えた。

 しばらく二人で黙っている。部屋の外はもう、宇宙のように音がしない。

 やがて、シーユーが目を瞑りながら、寝言のように今までのことを語り始める。あまりに寂しそうな声で。途切れ途切れで、よく分からなくても、その部分を訊き返す勇気は私にはない。懺悔に聞こえた。



 目が覚めても、止めるべき目覚まし時計はない。実家だと気付くのに、少し時間がかかった。

 横を見ると、すでに布団は畳んである。シーユーは先に起きたのか。階下で音がする。

 軽く着替え、階段を下りると、台所に母とシーユーの姿があるのを見かけた。二人で朝食の準備をしながら何やら話している。

 母の気安さは昔から知っていたものの、シーユーは意外だった。アパートで見る限りは、いくら隠れる必要があるとはいえ、極度の人見知りだと思っていたのだ。打ち解けている感じを見ていると、彼女の性格を勘違いしていたのではないかという考えが浮かんでくる。

 思考が反転する。もし私がシーユーを匿うことなく、むしろ早めに母に伝えていれば、また違った現在を迎えることができたんじゃないだろうか。少なくとも彼女を一人ぼっちにさせることはない。

「あ、エリー、おはよう!」

 急に目が合い、私は吃驚する。今考えていたことを悟られないよう、挨拶を返し、洗面台に向かう。



 朝食の後は、散歩することになった。

 特に理由があったわけではない。私一人だったら、どうせ帰省しても家でごろごろしているのだろうけど、今回はシーユーがいる。

 案内するところも特にないんだけどさ、と前置きすると、シーユーは笑ってくれた。

 玄関を出ると、涼しい風が通り過ぎる。悪くない晴れ模様だった。

 目的地がないのもよくない。一旦北の道を進み、そこから街の方を回って南から戻ってくることにした。これなら一通りまわれる。

 山に沿ってひかれた広い広いアスファルトの道を二人で歩く。タンスに残っていた高校時代のカーディガンが複数枚余っていたので二人で来てみたけど、どうみてもシーユーの方が似合っている。

 お互い、まだちょっとだけ、ぎこちなかった。

 幼い頃遊んだ公園、前よりもシャッターが目立つようになった商店街、広い田園を周り、最後に秘密の場所に案内することにした。

 ちょっと山を登ったところにある沢。普通の道路からは見えないところにある。秘密基地みたいな扱いで、友達にも教えなかった。

 地下水かなにかがここで浮かんできたように小さな水流を形作っている。大きな岩には苔が生え、数十メートル上には小さな橋がある。石を組み上げて作られている、せいぜい二人くらいしか通れない大きさ。右の道からその橋を渡ると山の頂上まで行くことができるのだ。

 今日は晴れているから、ちょうど木の間から光が差し、水面を照らしている。ちょうどいい。

 シーユーは陶然としていた。

「わー……」

 ふらふらと沢のほうに降りていく。

「気をつけてね。岩滑るから」

 まあ、大したことはない。小学生の私が安全に遊べるくらいの小さい流れだ。何度も転んだりして、やっと山について学んだのだ。

「エリーはここでも遊んでたの? 子供のころ」

「そう」ひょいっと平らな石の上に乗る。「昔はサワガニとか、サンショウウオとかもいたの。最近は間伐とか始まって、流れも汚くなった」

「でも、すごくきれい」

 そう、綺麗。でも変わっていっている。私の記憶の中の秘密基地はもうない。

 はしゃいで石をめくりサワガニを探すシーユーを見ながら、私は昨夜のことを思い出す。親と話した時だ。

 軽くだけれど、シーユーの母親についてのことを聞いた。犯人秘匿とか。法律のことについて勉強しなかったのをこれほど後悔したことはない。

 シーユーは何もしていない。普通だったらどこかに預けられるかしていただろう。おそらくそこから抜け出して、あのアパートにたどり着いたのだ。

 どうしても聞かなければいけない。

「……シーユー?」

「なに!」

「シーユーのお母さん、今どうしているか知ってる?」

 くるりと振り向く。目が戻っていた。真剣な目に。

「……わからなかった。たぶん、あの赤い車につれて行かれたんだろう、って思ってた」

「……うん」

 そうだろう。シーユーはとにかく逃げるので精一杯だったに違いない。そうじゃなきゃ、あんな寝言を言うはずないのだ。

  ごめんなさい、お母さん。

 いつだって切望していて、それでも手がかりがなかったのだろう。

 私は震えだしそうになるのを堪える。

 逆に言えば、やっと手がかりが繋がったのだ。私の親による思わぬ情報によって。昨日聞いた限りでは、シーユーの母親がどこにいるかも知っていそうだった。

「お母さんに、会いたい?」

 ああ、ついに訊いてしまった。シーユーにこれほど踏み込んだのは初めてで、正直怖い。彼女の逆鱗に触れるのではないかと心配になる。

 シーユーはじっと私を見て、そこから目をそらした。下流の方に体を向ける。

「分からない、の。会ってどうすればいいか」

 風が吹いて、広葉樹の枝を揺らす。

「会ったって、お母さんを連れ出せない。もしかしたらシーユーのこと、怒るかもしれない」

「そんな」

「それとね……もう、何をすればいいか分からない。これから」シーユーは空を見上げる。「生きるってなんなのか、ほんとうに分からなくなった」

 つられて私も青い空間を見つめる。分からない。私も、シーユーの疑問に答える術を持たない。

「いつまでも、エリーのお世話になっているわけにもいかない、から」

 氷が胸に突き刺さる。

 それを言ってしまうのか。

 いつだって、私たちの前には、さよならが横たわっている。

「ねえ」

 風が静かになった瞬間、私の震えは止まった。

 私は覚悟を決めて、言ってみた。

「訊いてみたらどうかな。お母さんに。どうすればいいかって」

 吃驚されるかと思ったけど、シーユーは振り返って、笑った。

「……どうして同じこと考えてたの?」

 風がもう一回吹いて、私たちの周りの空気を吹き飛ばした。


     ◇懺悔 5


 お母さん。

 わたしは今、あのアパートにいます。五階だてで、まどに段のある部屋。

 逃げ出して、走って走って、たどりついたのがあそこでした。生きなきゃいけない、そんな気持ちでいっぱいでした。

 そこでわたしは、一人の女の子と出会いました。

 その女の子は、やさしくて、他の人のことを考えることができる人で、さみしそうでした。すてきな人です。

 生きなきゃいけなくて、その子の部屋に、住まわせてもらうことにしました。

 シーユーという名前で呼んでもらうことにしました。手首の傷を見て、そういう読み方をお母さんから教わったからです。

 いつか、女の子にもさよならを言わないといけないから。

 そんな理由で決めたのは、ひみつです。今はあまり、さよならを言いたくありません。



 ようやくおちついて、お母さんとの約束をまもれると思ったのに。

 なんだかわたしは、不安です。

 生きるって、なんでしょう。

 このごろずっと、お母さんの思い出にすがっていました。二人ですわって花火を見たあのまどの段。あの部屋に長くはいられなかったけど、でも覚えていました。あそこにいれば、少しだけおちつきました。

 ただ、それだけじゃだめなんだと思います。

 それは、その女の子を見てから、考え始めました。

 女の子はいつも大変そうです。家族とはなれて一人で学校に通って、家でもいろんなことをして、外で時々お手伝いをしてお金をもらって、それでも、まんぞくしていなさそうでした。

 つらそうで、さみしそうでした。この間も、他の人のことばかり考えすぎて、自分が何をすればいいのか分からなくなって、その子は泣いていました。

 わたしは、なにをすればいいのか分かりませんでした。そして今も、分かりません。

 お母さん。もう一回、話せるなら、そのことについて聞いてみたいです。

 自分でかんがえないわけじゃないです。そうだんしたくて。そうしたらやっと、見えてくると思って。



 この手紙は、女の子の家で書いています。

 お母さんと会えるか分からないし、もしかしたら手紙だけでもわたせるだろうと思って、紙とふうとうをもらいました。

 とどくでしょうか。

 もう一回、話せるでしょうか。

 会うにはいろいろなてつづきをしないといけないと聞きました。なので、どうなるかは分かりません。

 でも、もし会えたら。

 わたしは、今までの話をしようと思います。お母さんとはなれる前のこと。はなれた後のこと。

 そして、これからどうすればいいか、ききに行きます。

 お母さん。さみしくないですか。わたしはそればかり、気になっています。突然ひとりぼっちになったお母さんは、一番、さみしそうな顔をすることは、私が一番知っています。

 だからわたしは生きていようと思います。お母さんがもどってきても、さみしくないように。

 もう一度、会えることをねがって。



                   海智佳

   お母さんへ




     ◇六月 5


 月曜日。

 電車では口数が少なかった。

 私とシーユーと、私の母。三人で目的地に向かう。

 移動は二時間くらいらしい。とはいえ、母に着いて行くしかない。

 横で座るシーユーは、封筒を握り締めていた。昨日、一生懸命書いていた手紙。届くのだろうか。それは分からなかった。

 話はとんとん拍子に進んだものの、やはり手続きはネックらしい。父も母もよく知らなかった。なんとそこで登場したのが兄。その辺りについて調べてもらった。シーユーのお母さんがいる場所も。

 今日急に行っても、まず会えない。

 でも、行ってみたい。

 珍しいシーユーの願いに、私たちは追随した。



 角を曲がった途端、大きな塀が目に付く。

 並木道。左に桜、右に塀。急に雰囲気が変わって、肌が粟立つ。

 ここ、か。

 手続きのためにはぐるりと回らなければいけない。三人で歩き出す。

 と、そこでシーユーが前に出て振り返った。いつもの黄色いコートがはためく。

「ここからは、一人で」

 何を言い出すのか。

案の定、母が横で声を上げる。

「何行ってるの。手続きとか話聞いてきたりするんだから、大人がいたほういいでしょう」

「いいんです」シーユーは頑なだった。「……たぶん、ここを一人で歩けないと、お母さんに怒られるから」

 そんなことで、と思ったけれど、私は途中で口を閉じる。

考えてみれば、ここ数ヶ月でシーユーが一人で歩くことなど、ほとんどなかった。

 ここでシーユーが一人で行かないと、という気持ちが、なぜかその時、よく分かった。

 一歩前に踏み出す。

 彼女と目が合う。私は口を開いた。

「……ごめん。何言えばいいか分からない」

 笑われてしまった。気の聞いた台詞なんて考えていたからよくない。今生の別れというわけではないのだ。

 もともと実感がわかないのだ。火曜日から学校だなんて、もはや忘れきっていた。

「あのさ」

「なに、エリー?」

「……今の私のアパート、契約三年なんだ。高校卒業まで。だから、あと一年と十カ月はあるし、その」

 自分が何を言っているか分からなくなって、顔が赤くなる。もっと伝えるべきことがあるのに。

 シーユーはにこにこしている。そうして笑うのももう見れなくなる、なんて思いたくない。

「それなら」髪をかき上げ、シーユーは手をグーに握る。「冬の時みたいに、ドアをずっとノックしていればいい?」

「だめ。風邪引くでしょ。すぐ入れてあげる。合言葉、覚えてるよね、シーユー」

 彼女はその拳を私の胸元に当て、ノックする。

 ココン、コン。

 そう。

 それが、私たちの会う印。

「うん。いってきます。でも、待っててっていえない。どうなるかまだ、分からないから」

「……待ってるよ」

 待ってる。

 ここで。あのアパートで。

 私たちが立ち止まっているままに、彼女は歩き出す。向こうへと。

 だけど、やっと。さよならという言葉が、私たちから消えた。そんな言葉が必要なくなって、再会を約束できた。

 言い忘れたことを、大声で告げる。

「シーユーって呼ぶの飽きたから、今度から名前で呼ぶからね! 海智佳!」

「やー! 恥ずかしい!」

 これで、完了。別れの言葉はおしまい。

 寂しさも不安も、どこかへ消えていった。

 向こうへと歩く彼女も、ほんの少しでいいから思ってくれたらいい。

 また会えるから、大丈夫だってことを。




目次

第一話 すぐに See you, soon.

第二話 あとで See you, later.

第三話 またね See you, again.


INFORMATION
サイトリンク
 ・AERIAL FUTURE - http://aerial.kitunebi.com/
  メイン。近況報告、小説掲載など。

■web拍手お待ちしています。


この小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

本ページの文章コンテンツの著作権は義里カズに帰属します。無断で複製、配布等することは法律で禁止されています。